台風12号トゥインサーフィンの旅 2006/09/05~06
The Day
The Day、それは自分にとっての特別な日、私はその日を待っていた。
観測史上、稀なアメリカ産の台風12号が日本に近づきつつある事を知ったのは1週間前だった。
進路や勢力を見るにつけ、この台風が特別なものである事は明らかだった。
我ら茅ヶ崎トゥインサーフィンチームはこの台風に合わせて準備を進めることにした。
去年の秋、茅ヶ崎沖のSポイントで私たちのチームはファーストチャレンジを決行した。
恐怖と快感が同居するトリプルサイズのコンディションの中で初めてそのポイントでサーフィンする事ができた。
そして初めてそのポイントでトゥインサーフィンしたローカルとして歴史に名前を刻む事もできた。
その後もここでライディングする事を目標に今日まで準備と練習を重ねてきた。
サーファーはいつか自分を証明しなければならない時がやって来る。
そして、遂にThe Dayその日が迫ってきていた。

だが、その後に劇的な展開になる事を誰も知らなかった。

Rider Hosoii Photo Kurebayashi
Rider Hosoii Photo Kurebayashi
Special Guests
彼らはハワイ、ノースショアからやってきた。

Garrett Mcnamara(写真左)

Kealii Mamala(写真中)

Larry Haynes(写真右)

GarrettとKealiiはトゥインサーフィンの世界チャンピオンである。
Larryはそんな彼らのドキュメントを撮影するカメラマンとして同行してきた。
彼らは今回の台風12号がハワイの沖を日本に向かって進んでいるころ、この台風が特別なものであることを感じていたようだ。
グランドスウェルが湘南にヒットしはじめた4日、月曜日ドンピシャのタイミングで台風を追いかけて茅ヶ崎にやってきた。
Garrettは私に会うなり「ニッポン、センズリ、サイコー」と変な日本語をしゃべりながらで近づいて来た。
完全にイカれている。
彼らはハワイからやってきたが、私達にとってはまるで宇宙人であった。
そして、彼らと共にThe Dayを過ごすことになる。
私達の目の前で繰り広げられた彼らのパフォーマンスは壮絶なものであった。

Team
トゥインサーフィンは一人ではできない。
海上ではドライバーとライダーのペアだけでもできるが、400kgものジェットスキーを浜から出すのには最低でも5人は必要だ。
私達はサーファーとして共に夢を追いかけるメンバーを募り、去年の春に茅ヶ崎トゥインチームを結成した。

オリジナルメンバーの紹介をしよう。

Hosoii
チームの発起人でリーダー
全日本サーフィン選手権チャンピオン
Hosoii Surf & Sportsオーナー

Komis
良い波を求めて何処へでも行くプロウインドサーファー
Komis Wetsuitsオーナー

Kure
サーフィン、ウインドサーフィン、カヌーなど何でも撮れるプロカメラマン

Takei
小川直也邸などを手掛ける建築家にしてガッツ溢れる茅ヶ崎ローカル

そして
Shigeru
日曜大工と音楽が趣味の親父サーファー
Tide-Tableオーナー

以上5名だ。

メンバーはみんな貧乏だかお金を出し合い、ジェットスキーなどの道具を買って練習を重ねてきた。
トゥインサーフィンは危険なスポーツだ。
チームのメンバーを守る為にレスキュー訓練は欠かせない。
どんな事があっても救助に行かなければならない。
お互いを信頼しあう事で初めて成り立つスポーツなのだ。
私達は固い絆で結ばれている。

準備はできた。
そしてThe Dayはそこまで迫ってきていた。

Chiba
5日火曜日、The Day
前日の夜は興奮して眠れなかった。
朝5時半に電話が鳴った。
Hosoiiからの情報では台風の進路が変った為にSポイントは波が無く、湘南はこれ以上サイズが上がらないと言う。
話し合いの結果、千葉へ波を追いかけることになった。
6時半にメンバー全員集合したが、初めての遠征の為、ジェットやトレーラーの手配に手間取り、久里浜のフェーリーに乗り込んだのは午前11時であった。
フェリー乗り場から千葉勝浦のローカルにトゥインの許可を得る為に電話連絡を入れるが、なんと駄目だという。
サーフィンにはローカルルールというものが存在し、そのルールは絶対的なもので、何人たりとも犯してはならない。
メンバーを重苦しい空気が包む。
フェリーの中でも言葉が少ない。
折角、ここまで来たのにという思いがメンバーの表情に現れている。
鴨川からビーチをチェックするが真っ白で全面クローズアウト。
勝浦マリブはダブルサイズでプロ達がセッションしている。
右手の松部はトリプルサイズのパーフェクトな波、そしてセンター沖がショットガンと言うポイントだ。
名前どおりハードなトリプルオーバーの波が割れている。
ハワイアン2名はここでトゥインサーフィンしたいと言う。
再度、ローカルにここでの許可を確認するがやはり駄目だ。
時間は刻々と過ぎていく・・・
このまま、なにもせず帰る事になってしまうのか。

しかし、この後、奇跡が起こる。

Secret
誰も知らない秘密のサーフポイントがある。

時間はすでに3時を回っていた。
風も変りオンショアになり、コンディションは悪くなる一方であった。
ハワイアン2名は鴨川と勝浦を行ったり来たりしている間、入り江が入り組んでいる海岸線を丁寧に観察していたようだ。
このあたりはパドルアウトではアクセスできないポイントがいくつかあるらしい。
しかし、そこは誰もサーフィンしたことがないようなポイントで行きたくても行けないような場所だ。
彼らはそのシークレットをこれから見つけて、そこでサーフィンしようというのである。
それは台風のうねりがダイレクトにヒットしている状況の中ではとても危険なことで一種の賭けである。
万一、ジェットスキーが転覆すれば帰ってくることができなくなってしまう。
しかし、彼らはそこに行く為にハワイからやってきたのだ。
メンバーに緊張感が漂う。
皆でランチングし、小さな浜から出廷する。
沖のうねりはバカでかい、ジェットスキーはその中に消えていった。
ピークを3回越え、走ること30分、10feetのグーフィーを見つける。
インサイドは断崖絶壁でドライリーフが牙をむく、人影は見えない。
ワイプアウトして3回巻かれるとロックオンしてしまうような危険な場所だ。
たまに右の奥からはワイメアのような20feetのレギュラーが割れる。
私達はシークレットを見つけたのだ。

私達はこの場所で遂にGarrettとKealiiのパフォーマンスを見ることになる。

Session
すでに夕方になっていた。時間が無い。
シークレットを発見した我々はインサイドにカメラマンのLarryとKureを落とす。
こんな危険なポイントではたしてウォーターショットができるのだろうか?
波は10feetのグフィーがコンスタントに割れている。
最初にGarrettが行く、トップからまっすぐにボトムへ、波をえぐるようにボトムターン、リップにボードをぶち当てる。
とてもセーフティに乗っているようには見えない。まるで、危険を楽しんでいるかのように過激に波を攻めている。
Garrettのボードはニッケル製だ。重さは20kg以上もある。
滑稽なくらい重装備だ。
ライフベストをウェットスーツの中に着込み、頭にはヘルメット、膝にはプロテクター、まるでアメリカンフットボールの選手のような格好だ。
JAWSで何度も死にそうな思いをした経験がきっとそうさせているのだろう。
ブレイクポイントでLarryはみかん箱くらい大きなハウジングを構えて撮影している。とてもすばやくは潜れない。
3回巻かれるとインサイドリーフまで持って行かれる。
すぐにレスキューに行くが、Larryは平気な顔をしている。
プロ水中カメラマンとして自信に満ちた表情だ。
本当に凄いやつらだ。
負けじと我らのカメラマンKureも際どいショットを狙う。
何度もホワイトウォーターに揉みくちゃにされる。
カメラマンは割に合わない。
Kureはカメラハウジングを顎にぶつけ怪我をした。
ヘルメットも巻かれた際に脱げて流されリーフの餌食になってしまった。
ここは水中カメラマンの戦場だ。
続いてKealiiが行く。Kealiiはハワイトゥイン界の若手のホープだ。
際どいラインからチューブインする。
とても上手いが抜けられず何度か潰される。
しばらく浮いてこないが平気な様子、超人だぜ。
ボードもリーフまで流される。
かなり危険だがジェットでリーフに打ちあがったボードを取りに行く。
そんな「Session」が繰り返される。
右の奥から20feetのライトも割れる。
日本にもこんなポイントがあるのだ。
誰も乗ったことの無いような幻の波が無数に割れている。
インサイドは断崖絶壁、ギャラリーもいない。
ここは日本なのだろうか?
我々、日本人クルーはジェットの上で只その光景を見ているだけで精一杯であった。
それぞれ10本ずつライドして「Session」は終わった。

すでに日が暮れかかっていた。
出発地点の浜まで戻らなければならない。
真っ赤な夕日の中を2台のジェットスキーは疾走した。
こうして、私達の「The Day」は終わろうとしていた。
偉大な自然よ、ありがとう。

Rider Garrett Photo Kurebayashi
Rider Kealii Photo Kurebayashi
Rider Kealii Photo Kurebayashi
Iwaki
ChibaのSecretでのGarrettとKealiiの熱いセッションが終わった。
結局、私を含めた日本人クルーはそのパフォーマンスに圧倒されて、水に入ることすらできなかった。
もし、仮に入っていたら陸に戻って来れなかったと思う。
それ程、ヘビィーでディープな波だった。
浜に戻って来た時には、日が落ちかけていて、ジェットをしまう頃には真っ暗であった。
近くのレストランで食事をしながら翌日の予定をミーティングする。
このままChibaに残り同じリーフポイントを狙うか、台風を追いかけ北上するかだ。
熱い意見が交わされる。お互いをリスペクトすることで会話が成り立っていく、至福の時間を共有した男達だけに許される会話の時間だ。
皆の意見がまとまり、茨城日立まで北上することになった。
千葉と茨城は隣の県だが一般道で行くと果てしなく遠い。
単調な道がひたすら続く。
とりあえず、夜11時に成田まで辿り着く、とりあえず仮眠、翌朝4時出発、テンション張ってないといかれちまう感じだ。
朝8時、日立灯台下に到着、しかし、風が合わない。
北東からのクロスオンショア、サイズはトリプルオーバーあるが風速10m以上吹いていて、ここではできそうもない。
また、ミーティングして、さらに北上することになった。
一体どこまでいくんだろう?
IwakiのIwamaビーチに到着、なんと風をかわしている。
ビーチなので完全にクローズアウトしているが、たまにアウトでトリプルサイズが割れる。
ハワイアン2名はここでやろうと言う。
しかし、こんなコンディションでアウトに出て行けるのだろうか?
私はジェットの3人目に乗る、ドライバーはGarrettだ。
ドライビングテクニックが凄い。ビーチの横幅をフルに使い、あっという間にアウトに出る。
Garrettが叫ぶ。「Go, Shigeru!」
俺が最初かよ?
とにかく行くしかない。覚悟を決めた。
レギュラーはとにかく良い形だが一体自分がどこをすべっているのか判らなくなるくらいショルダーが長い。
ファーストブレイクは強烈だが、その後、ロングショルダーが現れる、そしてまたインサイドで掘れてくる。
次々に日本人クルーがドロップし、ロングライドを決めていく。
皆の顔に笑みがこぼれる。最高だ!
皆10本くらい乗って日本人クルーのセッションは終わった。

Rider Shigeru Photo Kurebayashi
Rider Takei Photo Kurebayashi
Rider Hosoii Photo Kurebayashi
Rider Komis Photo Kurebayashi
Rider Shigeru Photo Kurebayashi
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